花譜「不可解」完結編ライブレポ──カンザキイオリとの“別れと出発の物語”

息もつかせぬ、バーチャルならではの大スペクタクルへ

無骨なリフトに乗って「観測所」を後にすると、荘厳な音楽と共に攻撃的なシルエットが映し出された。ゆらゆら揺れながら光を纏い、らぷらす(花譜と共存する魚のようなキャラクター)の咆哮と共に現れたのは、更なる新形態「花譜特殊歌唱用形態 軍鶏(想)」だ。背面に広がる装飾が尾羽を想起させ、鶏冠が赤々と輝く。観測者たちの期待値を極限まで高めると、花譜さんが降り立った新たな舞台は、波音の聞こえる静かな浜辺であった。

またも予想外の展開に理解が追い付かないオーディエンスをよそに、静かに言葉を繋げながら海沿いの道を行く花譜さん。「咲き乱れる号哭が、感覚が、どうしても手放せなかったのは、同じようにどこかで泣いている君に出会うためだったんだ」──優しい語りとともに歩みを進めると、舞台は砂浜から街中へ、そして渋谷の街を思わせるスクランブル交差点の中央へと移り変わっていた。 正面に向き直り覚悟を決めた視線で観測者たちに相対すると、バンドメンバーたちが召喚され、一気にテンションを上げて「過去を喰らう」をドロップ。攻撃力全開の新形態にこれ以上なく相応しいアグレッシブなロックソングでクライマックスへの口火をド派手に切ると、交差点を取り囲む巨大ディスプレイすべてにMVが映し出されていく。さらに上空には逆さまのビル群が広がり、バーチャルならではの大スペクタクルがこれでもかと表現された。 そんなドラマチックな空間の中で絶唱する花譜さんは、神々しいまでのオーラを放つ。世界のすべてを吞み込んでしまいそうなほどに大迫力のパフォーマンスを繰り広げながらも、その表情には一切の気負いはなく、むしろいつになく自然体で、自らの居場所はここなのだと力強く宣言するかのようだ。

ここで多彩な楽曲たちで彩られたセットリストを支えた超強力バンドメンバーたちを紹介し、改めての感謝を述べると「まだまだまだまだ、一緒に盛り上がってもらえたら!」と激情そのままにオーディエンスを煽る。

しかし過熱しきった空間を冷ますように、雨が降り始めた。一気に表情を変えた街並みの中心で花譜さんが歌い始めたのは「過去を喰らう」に続く三部作の第二弾「海に化ける」。雨粒流れる上空にはらぷらすも駆けつけ、華やかな演出で世界観が補強される。 今度は突然アスファルトがひび割れたかと思えば、花譜さんやバンドメンバーたちを乗せて地面が上空へ飛び去っていく。アトラクティブの一言では表現しきれないほどの趣向が凝らされたスペースで披露されたのは、もちろん三部作完結編「人を気取る」。上下に広がる都会の光に照らされながら、踊るようにたゆたう地面の破片。それぞれのピースの上でパフォーマンスを展開するバンドメンバーに焚きつけられ、花譜さんも走り回りながらハンズアップを煽る。強風吹き荒れる都会の上空でエネルギッシュに歌声を轟かせる様から、もう目を離すことができない

「不可解」に続く「未観測」「狂感覚」 そして辿り着く旅路の果て

バーチャルライブでしか実現しえなかった究極のステージを完遂し、次の次元へと吸い込まれていく花譜さんたち。意気揚々と飛び込んだ新世界は誰も知らない「未観測地点」。いよいよ大団円の雰囲気が漂い始める中で届けられたのは、「不可解」に続くシリーズ楽曲「未観測」だ。

我ら不合格 されどおいそれとくたばらぬ

未観測の荒野を共に行く同志たちの背を支える歌を、力強く拳を掲げながら歌う。いつになく真っ直ぐなエールが観測者たちの心に熱を宿らせていくと、遂に上昇は止まり、舞台は雲の上の「臨界点」へと。 吸い込まれそうな星空から数えきれないほどの光の筋が降り注ぐ幻想的な光景の中、「不可解」シリーズ三部作完結編「狂感覚」が披露された。言葉をひとつひとつ辿るように丁寧に歌い上げていくが、静寂を引き裂くような絶叫とともに蒼天が広がる。そしてカラフルな花々が咲き乱れ、どうしようもないほどに美しい景色の中に響く歌は、一生忘れることのない確かな記憶として観測者たちに刻み込まれていった。 遂に辿り着いた旅路の果ては「出発の祭壇」と呼ばれる空間。シンプルな衣装へ衣替えし、階段を上りながら再び言葉を紡いでいく花譜さん、仰々しいオブジェクト立ち並ぶ異空間にあってもその足取りは軽く、表情は和やかだ。祭壇上階へ昇ると「今日はなんとあのお方が来てくださいました」と、最後のゲストを呼び込む。

影を纏ったような真っ黒の姿で現れたのは、花譜さんの音楽を語る上で欠かすことのできないカンザキイオリさんだ。まさかの登場に開いた口がふさがらない観測者たちだったが、穏やかに笑顔を交わす二人の姿に思わずほっこりとさせられる。

シリーズを通じて披露されたほぼ全ての楽曲を手掛けたカンザキイオリさん。多大な貢献どころではない関わり方をしてきたライブシリーズ「不可解」の完結にあたり、「私にとっても青春のような日々で、思い返せば一瞬なんですけど、その一瞬一瞬がありえないくらいの感動とか衝撃があって、自分たちが感じられたものが『不可解』を通じてたくさんの人に届けることができたんじゃないか」と振り返る。

互いに何度も感謝を伝え合い、ゆっくりと丁寧に気持ちを言葉にしていく二人の様子は、きっと普段もこうなんだろうと思わされるほどに自然体で、二人の出会いが互いにとってどれだけ幸福なことであったかがよくわかる。

1
2
3
4
5

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

音楽・映像の週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ