論点の移動──「背任」から「コピー」へ
HYBE側が「背任疑惑」を主張したのに対して、ADOR側は「コピー疑惑」で応戦した。
HYBEがADORの法的な契約違反を問題視しているのに対して、ADORは法のフレームから論点を完全に移動させたのである(のちの記者会見や声明文で疑惑の否定は行われた)。
ここでは、ADORが主張した「コピー疑惑」について論じる(HYBE側の「背任疑惑」主張を取り扱わない理由は、現段階では一個人が真偽を判断できない領域だからである)。
とにかく、HYBEの強制監査が行われた22日にADOR側で発表した声明文(外部リンク)では、これを「ILLITのNewJeansコピー事件(아일릿의 뉴진스 카피 사태)」と命名。
ILLITが芸能活動のあらゆる領域でNewJeansをコピーしていると主張し、「ミン・ヒジン風(流)」「NewJeansの亜流」という彼女たちの評価を引用しつつ、苛烈に批判した。
BELIFTから3月25日に出帆したガールズグループ・ILLIT。
そのデビュー曲「Magnetic」は素晴らしかった。細く幻想的でメロディカルなシンセサイザーと分厚いベースが接触するPluggnb(PluggとR&Bをミックスした音楽ジャンル)にハウスビートを敷くトラックは、K-POPで見慣れないスタイルである。
細いシンセ/厚いベースの相反する音色が両立したサウンドは、“super 이끌림(和訳:とても惹かれる)”と言うサビのラインに象徴される、磁石(=Magnetic)の特性を用いた楽曲のコンセプトを拡張するのに成功する。
これは、初打席からロングヒットを成し遂げた、ILLIT(およびそのチーム)の成果である、と言うのが筆者の所感だ。
ここで芸術性を問うべきではないかもしれないが、声明文で(「剽窃」とは明言しなかったものの)「コピー」「亜流」と主張したからにはその価値判断が入らざるを得ない。
まず間違いなく、ILLITはNewJeansの剽窃ではない。
ただ、「コピー」と言うワードは「剽窃」より広めの可能性を想像させる。例えば、発表の前段階で企画アイデアが盗用されたのかもしれない。それは重大に捉えるべきだろう。しかしADORの声明文にそういった記述は見受けられない。
そのような背景がありつつ(後の記者会見と声明文でHYBEからかけられた背任疑惑は全面否認したものの)、ADOR側が22日に発表した声明文は疑惑への反論になっておらず、「コピー」に移動させた論点も、正直妥当とは見做しづらかった。
もちろん、この状況で過度な「論理性・客観性」を要求することが、特に大企業の子会社という弱い立場であり、さらに「無実を証明」すべき側に対して無理な要求をしているのかもしれない。
しかし、不明瞭な「コピー疑惑」の糾弾は、互いのチーム/ファンダムが敵対することを容認する信号となり得る。
それが巻き起こすだろう非難の矢先は、デビューして1ヶ月しか経たないグループのメンバーたちに向けられる。K-POPジャンルの特性上、有効な発言権を持たれないまま。
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