『ガールズバンドクライ』にみる“アニメ塗り”とは異なる塗り分け
だが、TVアニメ『ガールズバンドクライ』においては、そうした「アニメ塗り」が踏襲されているとは言い難い。
特に衣服に生じる影に顕著だが、総じてやわらかなグラデーションで表現されており、簡潔な塗り分けは意図されていないように見受けられる。
実際の人物に生じる影の明暗境界は不明瞭なわけだから、「影」の部分だけに着目すれば、『ガールズバンドクライ』はドローイングアニメーションよりも写実志向であると言えるかもしれないが、そうともいえないだろう。
というのも、「輪郭線」は存在しているからだ(わざわざ確認するまでもないことだが、実際の人物に輪郭線は存在しない)。
そうした本作の特徴的なビジュアルを、プロデューサーの平山理志さんは「イラストルック」と説明する(外部リンク)。本作のキャラクターデザインを手がけた人気イラストレーター・手島nariさんのイラストを、3DCGで忠実に再現することを目指したという。
なるほど、本作の特徴的なビジュアルはイラストの再現を意図したと説明されれば合点がいく。
だが、イラストとは動かないことこそが自然であり、本来は動かすことを前提に設計されていないはずのイラストが動くというのは、たとえるなら、彫刻が思いがけず動き出すかのような不自然さを伴う。
もっとも、ここでいう「不自然さ」とは、単に不気味さや違和感を意味しない。そうではなく、ハッとさせられるような、新鮮な驚きがあるのだ。
コロコロと七変化する表情──即興的なフェイシャルアニメーション
また、TVアニメ『ガールズバンドクライ』はアニメーションも意欲的だ。とくにコロコロと表情を七変化させるフェイシャルアニメーションに魅了された視聴者も多いのではないだろうか。
だが、そうした即興的な演技を3DCGで実現するためには、多くの困難が伴う。3DCGにおいてアニメーターが設計できる演技の幅は、詳細は割愛するが、モデルデータの設計に依存するためだ。
3DCGで即興的な演技を実現するためには、どこか転倒的ではあるが、モデラーとリガー(3DCGモデルを動かすための仕組みを設計する担当者)、そしてアニメーターの緊密な連携を要するし、工数の増加も避けられない。
即興的な演技は、むしろドローイングアニメーションが得意とする領域だ。
SNS上では、『RWBY』や『D4DJ』といった先行作品を連想するという感想も見かける。では、そうしたアニメと『ガールズバンドクライ』の差異はどこに見い出せるのか?
それに関しては、筆者自身、まだうまく言語化できてはいないのだが、私見では、ビジュアルとアニメーション(動き)の「かけ算」に核心がある気がしている。
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